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神戸地方裁判所 平成8年(ワ)2459号 判決 1998年4月24日

原告

倉橋力

ほか一名

被告

第二交通株式会社

主文

一  被告は、原告倉橋力に対し、金八七五万七〇七五円及びこれに対する平成八年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告倉橋昌子に対し、金七八五万七〇七五円及びこれに対する平成八年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告倉橋力に対し、金二五八七万四三九二円及びこれに対する平成八年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告倉橋昌子に対し、金二三八七万四三九二円及びこれに対する平成八年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した訴外亡倉橋雄大(以下「亡雄大」という。)の相続人である原告らが、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、亡雄大の死亡した日(本件事故の発生した日の翌日)から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

二  争いのない事実等(1・2・4は当事者間に争いがなく、3は甲第四号証により認められる。)

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成八年一月三一日午後一〇時二〇分ころ

(二) 発生場所

神戸市灘区友田町一丁目四番一五号先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 争いのない範囲の事故態様

亡雄大は、自動二輪車(一神戸み六三七五。以下「原告車両」という。)を運転し、本件交差点を東から西へ直進しようとしていた。

他方、訴外須古勝弘(以下「訴外須古」という。)は、普通乗用自動車(神戸五五え四九七一。以下「被告車両」という。)を運転し、本件交差点を西から南へ右折しようとしていた。

そして、本件交差点内で、原告車両と被告車両の前部とが衝突した。

2  亡雄大の死亡

亡雄大は、本件事故を原因とする失血により、本件事故の発生した日の翌日である平成八年二月一日に死亡した。

3  原告らによる相続

亡雄大の相続人は父母である原告両名であり、原告らが各二分の一の割合で相続した。

4  責任原因

被告は、被告車両の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故により亡雄大及び原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び過失相殺の要否、程度

2  亡雄大及び原告らに生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  被告

本件事故の直前の原告車両の速度は時速七五キロメートルを超えており、制限速度である時速五〇キロメートルを大幅に上回っていた。

このため、亡雄大は本件事故直前に自車に講じた急制動の措置によって自車を停止させることができず、バランスを失って自車を滑走させ、そのまま被告車両に衝突してきたものである。

そして、右事故態様によると、亡雄大にも過失があり、その割合は四割程度であるというべきである。

2  原告ら

訴外須古は、被告車両を運転して本件交差点を右折するにあたり、前方約三五メートルの地点に対向直進してくる原告車両を認めたが、自車が先に右折できるものと軽信し、原告車両の通過を待たず、同車との安全を確認しないまま漫然と右折進行したものである。

これに対し、亡雄大は、制限速度を遵守して原告車両を運転しており、直前に現れた被告車両との衝突を回避するため急制度の措置を講じたが及ばず、本件事故が発生したものである。

そして、右事故態様によると、亡雄大には過失相殺の対象となるべき過失は存在しない。

五  口頭弁論の終結の日

本件の口頭弁論の終結の日は平成一〇年三月一三日である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  甲第六号証、第七号証の二、第八ないし第一〇号証、乙第一、第二号証、検乙第一、第二号証によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点は、ほぼ東西に走る道路(国道二号線)とほぼ南北に走る道路とからなる十字路である。

東西道路は、植栽された中央分離帯で両側の車線が画され、本件交差点の東側では片側各二車線、両側合計四車線であり、西側では、これに東行き車線の右折専用の車線を加えた合計五車線であり、両側には歩道がある。そして、右東西道路は、幹線道路として交通量が多い。

南北道路は、車線の区別のない道路で、本件交差点の北側は南行き一方通行である。

(二) 訴外須古は、被告車両を運転し、本件交差点を西から南へ右折するために、減速しながら、本件交差点西側の東行き車線の右折専用車線に入った。そして、対面の青色信号にしたがい右折しようとしたが、前方約三五・〇メートルの地点に、対向直進してくる原告車両を認めたものの、自車が先に右折することができるものと即断し、時速約一五キロメートルでそのまま右折進行しようとした。しかし、その直後、前方約一五・八メートルの地点に、原告車両がその進行方向の左(被告からみた場合は向かって右)に車体を傾けながら接近してくるのを認め、危険を感じて直ちに被告車両に急制動の措置を講じた。

そして、被告車両は、本件交差点内の西行きの中央側車線にさしかかった付近で停止したが、ほぼそれと同時に、原告車両が被告車両に衝突した。

(三) 右衝突後、亡雄大は、右衝突地点の南側約〇・五メートルの地点に投げ出されて転倒した。また、原告車両は左前方に約二五・二メートル滑走し、本件交差点の西側、西行き車線の歩道寄りで転倒停止した。

なお、右衝突地点に向かって東側に、原告車両のスリップ痕約一二・六メートルと、さらに衝突地点に近いところに路面擦過痕約二・四メートルとが残されている。

2  右認定事実のほかに、被告は、本件事故の直前の原告車両の速度は時速七五キロメートルを超えていた旨主張し、甲第六号証、第七号証の二、第九号証にはこれに沿う部分がある。

しかし、過失相殺の基礎となるべき被害者側の過失を裏付ける事実については、加害者側に立証責任があるところ、右証拠はいずれも本件事故に関する訴外須古に対する業務上過失致死事件における同人の供述調書であり、これを客観的に裏付ける証拠はない。そして、右認定のスリップ痕及び路面擦過痕の長さに照らすと、右証拠のみから原告車両が時速七五キロメートルを超えていたとまではいまだ認めることができない。

3  車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない(道路交通法三七条)。したがって、右認定事実によると、訴外須古は、原告車両を認めた時点で直ちに自車を交差点中央部で停止させ、原告車両の通過を待って右折を開始すべき注意義務があったことは明らかである。

他方、車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(同法三六条四項)から、亡雄大にも本件事故に対して過失が認められる。

そして、右認定事実により本件事故に対する亡雄大と訴外須古の両過失を検討すると、本件事故に対する過失の割合を、亡雄大が二〇パーセント、訴外須古が八〇パーセントとするのが相当である。

二  争点2(亡雄大及び原告らに生じた損害額)

争点2に関し、原告らは、別表の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、亡雄大及び原告らの損害として認める。

1  亡雄大の損害

(一) 逸失利益

甲第四号証、第一三号証、原告両名の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、本件事故当時、亡雄大は満一九歳であったこと、大学進学への予備校である代々木ゼミナール神戸校に在籍し、大学への進学を希望していたことが認められる。そして、これらによると、亡雄大は、本件事故がなければ大学へ進学し、卒業後就職したはずであるところ、本件事故により死亡したために、満二三歳から四四年間の得べかりし利益を喪失するに至ったというべきである。

そして、右逸失利益を算定するにあたっては、賃金センサス平成六年度第一巻第一表の産業計、企業規模計、男子労働者、旧大・新大卒、二〇~二四歳に記載された金額(これが年間金三二四万八〇〇〇円であることは当裁判所に顕著である。)を基準に、生活費として五〇パーセントを控除し、本件事故時の現価を求めるための中間利息の控除につき新ホフマン方式によるのが相当である(四八年の新ホフマン係数は二四・一二六三、四年の新ホフマン係数は三・五六四三。)。

よって、亡雄大の死亡による逸失利益は、次の計算式により、金三三三九万二六八八円となる。

計算式 3,248,000×0.5×(24.1263-3.5643)=33,392,688

(二) 慰謝料

前記認定の本件事故の態様、亡雄大に生じた死亡の結果、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により生じた亡雄大の固有の精神的損害を慰謝するには、金一二〇〇万円をもってするのが相当である。

(三) 小計

(一)及び(二)の合計は、金四五三九万二六八八円である。

2  原告倉橋力

(一) 損害等

(1) 相続

原告倉橋力は、亡雄大の相続人であり、その相続分は二分の一であるから、亡雄大の損害賠償請求権の二分の一に相当する金二二六九万六三四四円を相続した。

(2) 慰謝料

前記認定の本件事故の態様、亡雄大に生じた死亡の結果、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により生じた原告倉橋力の精神的損害を慰謝するには、金五〇〇万円をもってするのが相当である。

(3) 葬儀費用

原告倉橋力の本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、同原告が亡雄大の葬儀を営んだことが認められるところ、前記認定の亡雄大の年齢、職業等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用を金一〇〇万円とするのが相当である。

(4) 小計

(1)ないし(3)の合計は、金二八六九万六三四四円である。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する亡雄大の過失の割合を二〇パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、原告倉橋力の損害から右割合を控除する。

したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金二二九五万七〇七五円となる(円未満切捨て。以下同様。)。

計算式 28,696,344×(1-0.2)=22,957,075

(三) 損害の填補

原告倉橋力が、自動車損害賠償責任保険手続において、金一五〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがない。

したがって、右金額を過失相殺後の金額から控除すると、金七九五万七〇七五円となる。

(四) 弁護士費用

原告倉橋力が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告が負担すべき弁護士費用を金八〇万円とするのが相当である。

3  原告倉橋昌子

(一) 損害等

(1) 相続

原告倉橋昌子は、亡雄大の相続人であり、その相続分は二分の一であるから、亡雄大の損害賠償請求権の二分の一に相当する金二二六九万六三四四円を相続した。

(2) 慰謝料

前記認定の本件事故の態様、亡雄大に生じた死亡の結果、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により生じた原告倉橋昌子の精神的損害を慰謝するには、金五〇〇万円をもってするのが相当である。

(3) 小計

(1)ないし(2)の合計は、金二七六九万六三四四円である。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する亡雄大の過失の割合を二〇パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、原告倉橋昌子の損害から右割合を控除する。

したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金二二一五万七〇七五円となる。

計算式 27,696,344×(1-0.2)=22,157,075

(三) 損害の填補

原告倉橋昌子が、自動車損害賠償責任保険手続において、金一五〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがない。

したがって、右金額を過失相殺後の金額から控除すると、金七一五万七〇七五円となる。

(四) 弁護士費用

原告倉橋昌子が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告が負担すべき弁護士費用を金七〇万円とするのが相当である。

第四結論

よって、原告らの請求は、主文第一、第二項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表

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